はじめに
臨床研修医制度が確立し、医学部医学科を卒業した学生は99%以上が2年間の初期研修を行うようになりました。さらに、日本専門医機構が発足し、その後3年間は専攻医として専門研修を行う医師が大多数となりました。
そうして臨床医としてのキャリアを積んでいき、大学院進学、博士号取得が必要なのか?と疑問を持つ人も多く、最近では大学院進学率が低下していると言われています。
m3の2016年の調査では、博士号の取得状況は、「取得済み」は50歳以上では64%に達した一方で、35歳以下では9%、「取得希望・準備中」の36%を足しても、計45%だったとのことです。
私は大学院を卒業しましたが、進学してよかったと思っています。
下記でそのメリットをお示しするとともにデメリットも紹介します。
この記事のサマリー
- 博士号は国際永久ライセンスであり、信頼の証としてあって損はない
- 海外留学を考えている方は大学院でコネクションができる可能性あり
- 大学院でリサーチマインドが身に付く
- お金のことを考えると進学はしない方が良い
- 大学院で医局のしがらみが強まるリスクがある
- 進学した方が良いかはその後のキャリアによる
大学院進学のメリット
博士号は国際永久ライセンス
「博士号」は英語で、Doctor of Philosophy(Ph.D.)と表されます。残念ながら日本においては、博士号があっても給料が上がることはあってもわずかですが、海外では尊敬の眼差しを得ると同時にしっかりと給料にも反映されるようです。
また、国際的には「〇〇大学卒」とかはあまり加味されず、「Ph.D.」と言うことで評価されるようです。
博士号は取ってしまえば永久にその資格は残ります。※何かの研究不正とかで取り消されることはありますが・・・
専門医のように更新も必要ないのです。
博士号はあって損はないでしょう。
海外留学できるチャンスが舞い込むかもしれない
海外に留学したいと思っている方は大学院に入学してコネクションを作ることが近道です。大学の教員の中には留学経験がある方もいると思います。教室によっては、代々海外の特定のラボ(大体は教授の以前の留学先)に留学をしている人がいるところもあります。
それ以外にも大学院での研究を国際学会で発表したりすると、思わぬところから話が展開して留学につながると言う話も聞きます。
また、上述のようにPh.D.の資格は国際的には重要で、それがあるおかげで留学の許可が降りやすかったり、留学先で給料がもらえるケースもあります。
リサーチマインドが身に付く
大学院で得られる最も重要なものが「リサーチマインド」です。
リサーチマインドの定義っていうのははっきりしていないようですが、日本語では探究心になるかと思います。
探求とは物事の意義や本質を探って明らかにすることです。
それなら通常の診療でも身に付くとは思ってしまいますが、忙しい臨床の傍ら論文を検索して、日々の診療を向上していくのは大変で、さらに臨床研究をするのは至難の業です。
ただし、それにはノウハウというのが存在し、ノウハウを身につければ忙しい中でも活かしていける可能性があります。
そのノウハウを学ぶのが大学院です。
リサーチマインドを身に付けることは研究だけでなく、その後の診療の質向上にもつながります。
他にも、学会発表や論文執筆で他の人に自分の主張を伝える能力が鍛えられます。このような伝える力は医療のみならず様々な場で活きてくるでしょう。
大学院進学のデメリット
時間的・経済的コストがかかる
大学院進学の最大のデメリット。
大学院博士課程は4年間です。※大学によっては飛び級卒業のシステムがあるところもあります。
4年間で終われば良いですがそうもいかないケースもあります。
経済的には4年間を普通に臨床をした場合と比べると大きな差が生じてしまいます。
大学院では週3〜4は研究にエフォートを割かないと中々進みません。
そうなると、週1日は休日として、バイトができるのは週2日です。その場合は推定年収800万円くらいとなります。生活は普通にできるレベルです。もちろん寝当直などのバイトを追加することもできます。
私も大学院生時代下記のようなエージェントを使って、非常勤やスポットバイトを探しました。
- 民間医局
- マイナビDOCTOR
- 医師バイトドットコム
一方、大学院進学せず、臨床を週4日やったらどうでしょう。
精神科単科病院勤務なら、おそらく推定年収1200万円くらいです。さらに週1日バイトすると推定年収1600万円くらいです。
すなわち大学院進学で、年800万円差額×4年間=3200万円の生涯年収が失われることになります。
非常に大きいです。
しかも、大学院の期間は30歳前後であり、結婚、出産、家の購入など大きなライフイベントがある年代で、お金も必要となる時期です。
お金のことを考えると進学はしない方が良いと言えます。
医局内でのしがらみ
大学院在学中に大学病院での勤務を命じられることがあります。これが最近クローズアップされた無給医のことです。世間で話題になったこともあり、無給ではなく極低給であるケースが増えています。
このせいで研究の時間や外でのバイトの時間が削られてしまうのは死活問題です。
また、卒業してからも大学病院勤務を長く頼まれたり、僻地勤務を頼まれたりすることがあります。大学院でお世話になった方から頼まれると断りづらいですよね。
大学院進学した方が良いキャリアプランとは?
- 大学教授、研究者
これは博士号は必須であり、博士号を取得することでスタートラインに立てると言えます。
- 地域の病院の部長(科長)
これも博士号が必要なケースがあります。
- 一般の勤務医
不要です。
- 開業医
不要です。集患に多少は影響する可能性はあります。ただし、開業資金を貯めると言う意味では大学院で大きく収入が減るのは開業が遅くなるリスクになります。
- フリーター医
基本的には不要です。しかし、バイト先を探す時に博士号があることは有利に働きます。今後医師の数が増えてくるため、年を取ってからも自分自身の価値を保証し続けるにはあって損はないと思います。
まとめ
大学院に進学し博士号を取得することはとても価値があることです。しかし、コストがかなり高いことであり、その投資に意義を感じるかどうかで進学するかを決めることになるかと思います。
進学した方が良いかはその後のキャリアによって変わります。自分が医師としてのどのようなキャリアを歩みたいかをよく検討し、進学が必要であるかどうかを判断しましょう。