はじめに
インターネット上で様々な情報が散乱しており、患者さんの中には自己診断して、病院に来られる方もいます。
それ自体は、もし診断がついてその方に支援がついて、行きやすくなったり、疾患自体の認知度が上がり、スティグマの軽減に繋がると良いと個人的は思います。
しかし、これらをビジネスチャンスとばかりに、様々な方面の人が煽り、過剰診断、過剰治療の温床になっていることもあります。
私たち医師はより正確な診断と治療を目指し、医療のクオリティを保つことが求められます。
ここでは、大人の発達障害、特に「大人のADHD(注意欠如多動症)」について解説して行きます。
※なお、筆者は精神科専門医ではありますが、発達障害の専門医ではありません。日々の診療で大人のADHDの方も診ていますので、大きな誤りはないと思いますが、不十分なところもあるかもしれませんのでご了承ください。
「大人の」とは
発達障害は元々は児童精神科領域での病気でした。
しかし、近年大人でも同様な特徴がある人がいることがクローズアップされました。
「大人の」というのは大きく2パターンあります。
- 子供の頃に発達障害の診断がつき、その方が大人になったパターン。
- 子供の頃は気づかれていなかったが、大人になってそれが顕在化したパターン。
診断について
基本的には、DSM、ICDを用いた操作的診断を行います。
DSM-5の診断基準では、9つの不注意症状および9つの多動性・衝動性症状があり、それらの症状のうち診断には6つ以上の症状が6ヶ月以上持続している必要があります。
(多動性・衝動性は成人では少なくとも5つ以上)
不注意
- 学業、仕事などで綿密に注意を払うことができない。ケアレスミスをする。
- 課題または遊びの活動中に注意を持続することが困難である。(講義、会話、読書など)
- 直接話しかけられても聴いていないように見える。
- 指示に従えず、課題を最後までやり遂げられない。容易に脱線する。
- 課題や活動を順序立てることが困難である。
- 精神的努力の持続を要する課題を避ける、嫌う、または嫌々行う。(宿題、長い文章を見かえすことなど)
- 課題または活動に必要な物をなくす。
- 外的な刺激ですぐに気が散ってしまう。
- 日常生活で忘れっぽい。(お使いすること、電話を掛け直すことなど)
多動性・衝動性
- 手足をそわそわと動かしたり、もじもじする。
- 教室、職場などで自分の場所を離れることが多い
- 不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりする。
- 静かに遊ぶことができない。
- じっとしていない、エンジンで動かされているように行動する。(レストランや会議に長時間とどまることができない)
- 喋りすぎる。
- 質問が終わる前に答え始めてしまう。
- 自分の順番を待てない。
- 他者を妨害し、邪魔をしたりする。
チェックリストみたいに問診をしていくのですが、ポイントは「12歳以前から」、「2つ以上の場所で」これがなければ、発達障害以外の他の疾患でも起こりうる症状です。
また、「障害」と言われる所以として、それらの症状により、家庭、学校、職場での機能を妨げられていることが重要です。
ネットの情報で「チェックリストで自分は当てはまります」と来られる方がいますが、上記の点が確認できていなかったりします。
このような場合、客観的な情報が必要ですので、親などの家族、職場の方の話を聞く必要があります。
普段の診療で中々ハードルが高いですよね。
グレーゾーンについて
こちらも患者さんの方から言われることもあるかと思います。
中には医師の中でもこのような表現をすることがあります。
診断基準ではグレーゾーンというのはないのですが、特にDSMでは下図のように「スペクトラム」の考え方をしているので、言ってみれば全てがグレーで、便宜上診断基準としては途中で線引きをしているという考え方かと思います。
診断基準に当てはまらないと支援ができないわけで、グレーゾーンと言っても何も報われません。
この場合、過剰診断して、治療や支援につなげる医師とそれはしない医師が存在しているのは事実で、診断の揺らぎになっています。
また、このような方を対象に、根拠のない治療などを進める悪い人もいます。
十分に注意が必要です。
※問診もちゃんとせずに、簡易的な心理検査やNIRSや脳波などで発達障害と診断してしまうクリニックもあるようです。さらにはそれを元に、何の根拠もないサプリやTMSを進める所もあります。
大人のADHDは不注意優勢型が多い
大人のADHDの特徴として不注意優勢型が多いです。
いくつか理由があるようですが、一つは多動衝動は子供の頃学校という場面では、じっとしていないといけない時間が長く目立つが、不注意は見逃されたり、親がカバーして日常で支障がない場合があることがあるのではと言われています。
また、大人になり仕事をすると、絶えずタスクやスケジュールに追われ、より注意力を要するため明らかになるとも言われています。
おわりに
大人の発達障害の相談は増えていますので、適切な診断、支援が重要となります。
診断基準を満たすか際どい人は、十分な問診が重要と考えられます。
また、抑うつ、不眠など別の主訴で来る場合も多いので、普段から頭に置いて診療することが求められます。